仕事をすれば、必ず賃金を請求することが出来ます。労働者である私たちは、自分の労働力を時間単位で売っているからです。自分の人格を丸ごと売っている奴隷ではありません。
労働基準法では、残業には割増を付けて支払わなければならないと決められており、守らない会社は罰せられます。会社が独断で「うちは残業代は支払わない」と判断できることではありません。ところが、残業代を払わない会社が少なくありません。入社時にはっきりと「残業代は支払わない」と明言するケースもあり、違法をよしとするひどい会社もあります。
残業代をきちんと支払ってくれない会社と関わってしまった場合は、未払い分の残業代を請求して取り戻しましょう。まずは、残業代の計算方法を理解して、次に未払い残業代を請求する方法について見ていきます。
「残業代ゼロ」(高度プロフェッショナル制度)は過労死促進法
仕事を時間ではなく成果ではかれという財界の要求で「残業代ゼロ法」が作られました。しかし、労働は時間ではかるものであって、成果ではかるなら、それは下請けにほかなりません。労働者に自由を与えず、残業代は与えない。これでは、ますます長時間労働がはびこり、過労死を増やすばかりです。どんなに適用範囲をせばめようと、どんな条件をつけようと「残業代ゼロ」は労働者を奴隷にする制度です。ルールは法制化されてしまいましたが、職場に絶対に導入してはならないしくみです。
残業代を取り戻す
残業代を払わない会社がよく言う4つのデタラメ
残業代を支払わない会社には、いくつかの逃げ口上があります。だまされないようにしましょう。
「おまえの仕事が遅いから」はウソ
「仕事が遅いから残業しているのは自分のせい」と言って残業代を払わない上司がいますが、でたらめです。
仕事量の管理は会社のつとめです。もし仮にあなたの仕事が遅いのならば、それを早くするために研修させたりすればよいだけのことです。他の人に応援をさせるという方法だってあるでしょう。
万が一、勤務時間中に職務に専念せず、仕事を遅らせたのであれば、それはそれで改善させられることです。しかし、仕事に不慣れなだけだったり、通常通りに仕事をしているだけで、「仕事が遅い、能力が低い」というのは言いがかりです。
「この業界では支払わない」はウソ
「この業界では残業代はない」というのは、でたらめです。
労働基準法の適用されないような業界は、国家公務員ぐらいです。国家公務員でさえ、別の法律で残業代は支払われます。なぜなら、「労働契約でお金と労働力の交換」、「残業割増をつけることによって長時間労働から労働者を守る」という2つの基本は変わらないからです。
このように、残業代を支払うことは法律で決まっています。そして、あなたと経営者が事前に「残業代はなくても良い」と約束したとしても、その約束は無効になると定めている法律です。あなたがどう考えても、上司がどう考えても、経営者がどう考えても、残業代を支払うのは日本のルールです。
残業したら、残業代は支払ってもらいましょう。
「小さい会社だから払えない」はウソ
「小さな会社だから払ったらつぶれる」というのは、まったくのでたらめです。
労働者に仕事をさせた分、もうけを出すのは経営者の仕事です。もうけが出ると判断したからこそ、労働者に仕事を命じたのです。その判断ミスの責任を労働者に転嫁するのは間違いです。そもそも、その程度の残業代を支払ってつぶれるぐらいなら、とっくにつぶれています。泣き寝入りをしないようにしましょう。
「残業しろと言っていない」はウソ
「残業しろとは言っていない」「おまえが勝手に残業した」という言い訳は通じません。
会社には、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理する義務と労働時間を把握する義務があります。上司が部下の残業をまったく知らないとは考えにくいでしょう。労働者がやむなく残業せざるを得ない状態ですから、これは「黙示の命令」があったとみなせます。
未払い残業代を請求する準備
残業代請求をするためには、自分がいつ、何時間仕事をしたのか明らかにすることが重要です。
労働時間のわかる資料を集めましょう
- タイムカード
- メールの発信時間
- ファックスの発信時間
- シフト表
- 業務日報
- 自分のメモ(毎日の日記)
計算は実労働時間数を1分単位で
労働時間を集計しましょう。有給休暇で勤務していなかったような時間は「労働した時間」には含みません。時間数の計算は1分単位で行います。労働者に不利にならない端数処理として、1か月の労働時間を通算して30分未満の端数が出た場合には切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げて計算することは認められています。しかし、単純に端数を切り捨てるなどといった処理は違法です。また、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げて計算する方法であっても、これを毎日の労働時間について行うことは認められていません。
労働時間は1分単位で計算します。15分未満を切り捨てたりしてはいけません。
始業時刻 | 8時25分 |
終業時刻 | 12時35分 |
労働時間 | ○ 4時間10分
× 4時間 |
残業には2種類 法内残業と法定時間外労働
労働時間がわかったら、まずは残業を2種類に分けます。法内残業と法定時間外労働です。
法内残業とは、会社で定めた所定労働時間は超えたけれども、労働基準法で定められた労働時間内の範囲で行われた残業です。たとえば、ある日は5時間しか働かなくてよかったのですが、1時間残業を命じられた場合、この1時間は法内残業の時間になります。
法定時間外労働とは、労働基準法で定められた労働時間(原則は1日8時間、1週40時間)を超えた残業です。
法定時間外労働は割増が必要
労働基準法は、法定時間外労働について割増をつけなければならないとしています。法内残業については法律上の決まりはありませんので、労働契約か就業規則によって決まります。就業規則で割増を支払うとしている場合は会社側に支払い義務が生じますので、まずは就業規則を調べてください。
そもそも残業は労使協定を結んでから
そもそも法定時間外労働は「36協定」を結ばなければ犯罪です。会社と労働者代表が「36協定」を結ぶことで、はじめて残業は違法ではなくなります。
労働者代表は公正な方法で選出
労使協定を締結するには、労働者代表を選出する必要があります。
労使協定を締結するにあたって、労働者の過半数で組織する労働組合がない事業所は、労働者の過半数を代表する者を「労働者代表」として協定を締結することが労働基準法で定められています。労使協定は事業所ごとに締結されるため、労働者代表も事業所ごとに選出されなければなりません。
経営者と一体的な立場の管理監督者は、労働者代表になれません。
そして、労使協定締結の代表選出であることを明確にして、事業所の労働者が投票や挙手といった民主的な手続きを行い、選出する必要があります。使用者が指名したり、親睦会の会長が自動的になることはできません。
残業の上限時間に注意
日本の法律では、残業の上限時間に規制がありませんでした。しかし、それでは過労死する労働者が増加してしまいます。そこで、法律に上限時間が明記されるようになりました。1ヶ月で100時間未満、2ヶ月から6ヶ月の間で80時間以下という過労死ラインそのものです。
残業割増の最低ライン
労働基準法で決められている割増率の最低ライン
法定時間外労働をさらに分類します。そして、原則的な1日8時間・1週40時間労働制を採用している会社の場合、これ以上、支払わないと違法です!
- 1日8時間を超えたら、または、1週40時間を超えたら(法外残業)…+25%
- 1月の時間外労働が60時間を超えたら…+50%
- 深夜10時から翌朝5時までの間(深夜)…+25%
- 深夜かつ時間外労働…+50%
- 深夜かつ月60時間超の時間外労働…+75%
- 法定休日…+35%
- 法定休日かつ深夜…+60%
1週間とは、就業規則等に特に定めがなければ、日曜日から土曜日までです。
残業時間を分類して、1ヶ月ごとの表にしましょう。
労働時間 | 割増率 | |
時間外 | 56時間 | +25% |
時間外(月60時間超) | 5時間 | +50% |
深夜 | 16時間 | +25% |
時間外深夜 | 4時間 | +50% |
休日 | 6時間 | +35% |
休日深夜 | 2時間 | +60% |
1時間あたりの賃金額を計算しましょう
「月給」を「1ヶ月あたりの平均所定労働時間」で割って、1時間あたりの賃金額を計算します。
月給には、次の5つの手当は含みません。
- 家族手当・扶養手当・子女教育手当
- 通勤手当
- 別居手当・単身赴任手当
- 住宅手当
- 臨時の手当(結婚手当、出産手当など)
1か月あたりの平均所定労働時間は、次の計算式で計算してください。
(365-年間所定休日)×1日の所定労働時間÷12
うるう年の場合は、366日で計算します。
年俸制でも残業代は別
年俸制とは、年間の賃金総額を決定するものです。それを振り分けて、1ヶ月に1回以上の賃金支払いを行います。残業代は、それとは別に計算して支払いをしなくてはなりません。
歩合給でも残業代は発生することがある
歩合給でも、残業代は発生します。歩合給の場合は、支給対象期間の総労働時間を基準として計算します。
固定残業代に注意
あらかじめ決めた金額の残業代相当を手当として支払う「固定残業代」があります。名目が違っても、就業規則等で固定残業代として取り扱っている場合があり、要注意です。
固定残業代は、正しく運用すれば必ず使用者にとって人件費が増え、不利になる制度です。使用者側にとってのメリットは、2つあります。1つは、月収を誇張することで、人集めすることです。もう1つが本来追加で支払わなければならない残業代を違法とわかりつつ支払わず、長時間労働を野放しにしながら人件費を抑えることです。
固定残業代については法的規制がありませんが、裁判の判決で適法かどうかの判断が示されてきています。次の点に注意して判断しましょう。
固定残業代の金額が明確であること
固定残業代の金額が明確でなければなりません。たとえば、「月給30万円(固定残業代を含む)」といった表記の場合は、固定残業代の金額が明確ではありませんから、いったい何時間の残業を前提としているか、しかも基本給すらわからない状態となります。
残業代の何時間分に相当するのか明確であること
固定残業代の金額がいったい何時間分なのか明確でなければなりません。「固定残業代5万円(時間外労働30時間分を含む)」というような記載が必要です。この場合も、単なる時間外労働と深夜労働、休日労働は区別して記載すべきです。
あらかじめ想定した時間の残業を超えた場合には残業代が追加で払われること
固定残業代で想定している残業時間を超える残業をしているのに、追加で残業代が支払われないのであれば、そもそもそれは固定残業代という認識がないことになります。就業規則等で追加で残業代が支給されることを明確にすることはもちろんのこと、それが実態として行われていなければなりません。
残業する人すべてに払われていて、そうでない人すべてに払われていないこと
残業のある人すべてには支給されていて、残業のない人にすべてに払われていないという状態でなければ、その手当は残業代としての性格が疑われます。
固定残業代に残業代以外の性格が含まれていないこと
固定残業代はあくまでも残業代としての支払いです。そこに、個人の成果が加味されたり、会社の業績が加味されれば、残業代としての性格が疑われます。基本給が一緒なのに固定残業代が異なる、月によって変動するといった場合があれば要注意です。
求人票における固定残業代の不適切記載例
厚生労働省は、求人票における固定残業代の次のような記載は、不適切であると通知しています。
- 固定残業代が何時間分であるか記載されていない。また、超過した場合に別途支給する旨も記載されていない。
- 固定残業代が何時間分か記載されているが、超過した場合に別途支給する旨が記載されていない。
- 超過した場合に別途支給する旨は記載されているが、固定残業代が何時間分か記載されていない。
- 基本給の中に固定残業代も含めて記載されている。
- 別個の手当と固定残業代が一括して記載されており、それぞれの内訳が記載されていない。
わかりにくい変形労働時間制、裁量労働制
「1日8時間、週40時間」の例外があります。
変形労働時間制
繁忙期に残業割増をつけさせないために「変形労働時間制」を取り入れている会社があります。ただし、事前の労使協定やシフト表をあらかじめ示すことなどのルールが決められています。
季節的な業務の繁忙がはっきりしている場合に「1年単位の変形労働時間制」が採用される場合があります。また、「1ヶ月単位の変形労働時間制」など週内での繁忙に対応するケースもあります。変形労働時間制の場合の時間外労働の計算は、原則的な場合(週40時間・1日8時間)の時間外労働の計算方法と比べると複雑です。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月単位の変形労働時間を採用する場合には、労使協定や就業規則等で具体的に定める必要があります。
変形期間における各日、各週の労働時間をあらかじめ具体的に定めておく必要があります。シフト勤務で毎月シフトを作成している場合等で就業規則に出勤日を記載することが難しい場合は、「変形期間開始日の●日前までにシフトにより明示する」等の文言を記載した上で、各労働者にシフトを明示します。事前にシフトを定めていなければ、この制度を適用しているとは言えません。
変形期間の労働時間の上限は、以下の計算式によって求めることができます。
1週間の法定労働時間(=原則40時間)×変形期間の暦日数÷7日(1週間)
これを計算すると、1ヶ月の労働時間の総枠は以下の通りとなります。
1ヶ月の日数 | 1ヶ月単位の変形労働時間制の上限労働時間 |
---|---|
28日 | 160.0時間 |
29日 | 165.7時間 |
30日 | 171.4時間 |
31日 | 177.1時間 |
残業時間のカウントは複雑ですが、割増賃金の支払いが必要な時間外労働となる時間は、順を追って計算します。
(1)1日については、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間。
(2)1週間については、40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて労働した時間((1)で時間外労働となる時間を除く)。
(3)対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①または②で時間外労働となる時間を除く)。
【注意】1日8時間、1週40時間を超えておらず、月の法定労働時間の枠内の場合は、法定内労働であって、割増賃金の支払いは必要ではありません。
1年単位の変形労働時間制
1年間の変形労働時間制は、1ヶ月以上1年未満で労働時間を設定する変形労働時間制です。就業規則に定め、労使協定を締結することにより、1年以内の一定の期間を平均し、1週間の労働時間が40時間以下の範囲内において、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。
年間での法定労働時間数は、以下のようになります。
1年の日数 | 1年単位の変形労働時間制の上限労働時間 |
---|---|
365日 | 2085.7時間 |
366日(閏年) | 2091.4時間 |
労働日及び労働日ごとの労働時間に関しては、次のような限度があります。
(1)対象期間における労働日数の限度は、1年当たり280日です。
(2)対象期間における1日及び1週間の労働時間の限度があります。1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間です。
(3)対象期間における連続して労働させる日数の限度は、6日です。特定期間における連続して労働させる日数の限度は、1週間に1日の休日が 確保できる日数です。
(4)時間外労働の算定は、基本的には1ヶ月単位の変形労働時間制の場合と同じです。
裁量労働制
労働時間管理を曖昧にする「裁量労働制」の導入が進められている業界もあります。
研究開発職、編集者やデザイナー、プロデューサーなど、主にクリエイティブな業務や専門的業務など、労働時間を管理することが適切ではなく、その業務遂行の方法を従業員の裁量にゆだねた方が適切な「専門業務型」と、事業運営に関する企画・立案・調査・分析業務などの従業員の裁量にゆだねる「企画業務型」の2種類があります。いずれも手続きが必要です。
いずれも、残業代を払わなくてよいという仕組みではありません。また、長時間残業でたくさん残業代をもらったからといって、過労死したり、健康を害してからでは遅いのです。家族の顔を思い出して、レインボーユニオンにご相談ください。
残業は会社にとっても非効率
残業を前提とした業務計画は、そもそも会社にとっても非効率的、非生産的です。長時間労働を短くさせるためには、その観点が必要です。
残業代がなくては生活ができない場合は、基本給が低すぎるためです。そのような状況では、従業員が会社に定着せず、いつまでも熟練した従業員が育ちません。ひとりで会社に言うことはできなくても、レインボーユニオンに加入し、団体交渉することが可能です。
未払い残業代を請求する方法
未払い残業代を請求するには、次のような方法があります。それぞれ、メリット・デメリットがありますので、ご自身にあった方法を検討してください。
会社と直接交渉
会社に直接請求する方法です。
話し合いによる解決ですから、互いに譲るところは譲るという関係が成り立つのなら特に費用もかからず早期解決ができます。
労働基準監督署に申告する
残業代不払いは労働基準法違反ですから、監督官庁である労働基準監督署に指導してもらう方法が考えられます。
労基署への相談には費用もかかりませんし、会社も指導に従う可能性は高いでしょう。
一方、会社に対して匿名にしてほしい場合、調査に限界が生じます。客観的資料がない場合は指導できないこともあります。また、まれに指導があっても残業代を支払わない悪質な会社もあります。その場合は支払いを強制することができません。
裁判で請求する
弁護士に依頼して、裁判を行う方法です。悪質なケースでは付加金も請求できますし、遅延損害金も請求できます。しかし、一方で弁護士費用は一定必要で、ある程度の時間がかかります。
付加金
支払い遅延が悪質で、裁判所がそれと認めた場合には、付加金の支払いを認めてくれるケースがあります。付加金は、未払い金と同額です。
付加金の対象は、解雇予告手当、休業手当、残業手当、有給休暇の時の賃金です。
遅延損害金
支払いが遅れた分は、利息(遅延損害金)も合わせて請求できます。在職中は年6%(ただし、勤務先が非営利団体の場合は年5%)、退職後は14.6%です。
労働組合に加入して団体交渉する
個人で直接交渉と同じく、話し合いの解決です。しかし、会社側には必ず交渉に応じなければならない義務が生じ、交渉が成立しないときは組合側が団体行動権を行使する可能性がありますから、それが圧力となって早期に妥結することが可能になります。